ウルトラマントリガー総評

ウルトラマントリガー見終わった。2クールという制約でどう濃い話を作るか、制作陣が四苦八苦した経緯のうかがえる作品だった。序盤こそ粗が目立つが、後半に近づくにつれて面白さを発揮してきたように見える。

 かなり賛否両論が目立つが、全体的に高い完成度で、かつ高い人気を誇ったZの次であるから評価の閾値が高くなっているのは否めない。トリガー全体として言えるのは、あまり戦いに加わらない一般民衆や社会の描写が欠如していることだ。
 昨今の情勢故に仕方がないが、怪獣のいる世界で人間がどういう風に過ごしているかにおわせるシーンがほとんどなかった。そのためにGUTSと闇の巨人の間の戦いがどうしても内輪的な物になってしまい、トリガーの見せどころであるはずの広大な世界観がいまいち伝わってこないのだ。Zの場合はストレイジを内包する巨大な地球防衛軍がある事実が怪獣との戦いにリアリティを持たせていたが、トリガーではシズマ財閥があらゆる人類防衛のための方策を編み出したことになっている。シズマ会長もいくらでも取り上げる余地のあるキャラクターではあるが、その描写はケンゴやユナとの関わりにとどまっており、人類社会においてどう評価されているかも掘り下げが欲しかった所だ。
 またZに比べると怪獣のドラマ面での味付けが乏しく、単なる戦闘員的な扱いにとどまっているという指摘もあったが、最初からそれについては割り切っているような演出に感じられた。

 ウルトラマントリガーがなぜ生まれたのか、この過程は本編をなぞるだけではあまりに簡潔過ぎてよくわからない。尺の短さがここではもっとも問題に働いている、しかしその考察がトリガーの最も面白い要素と言える。「光であり人である」というケンゴの特質が非常に宗教的で、その秘密を探るのが神学に似た楽しさを感じさせるからかもしれない。
 ケンゴを私心を持たない、非人間的なまでに善性に根付いた存在として描きたかったのは分かった。彼がカルミラの魂を救済したことはその曇りなき善意を象徴するような結末だ。しかし彼は笑顔を大事にせねばならないことを再三強調するものの、笑顔を中心的なモチーフどして扱えたかと思うと疑わしい。彼が一般人に笑顔を取り戻させるようなエピソードがあればもう少し意義のある設定になったかもしれないが。  最終的にケンゴはエタニティコアの暴走を止めるためにその内部の中に入り込んだ。ハルキとは違う方向性で彼もまた人間を超えた存在になってしまったわけで、人間に戻るか、あるいは人間をやめるのかという選択肢はウルトラマンシリーズにおいてしばしば葛藤になってきたことだ。

 今作のハイパーキーはガイアメモリを彷彿とさせる形だが、実際にはガイアメモリよりもかなり多種多様な使われ方を見せてくれる。
 スパークレンスやハイパーキーが精密機械のようにケーブルにつながれているシーンは販促として実に役立っているのではなかろうか。ロックシードみたいに、玩具がいかにも道具として物々しく描写されているのに俺は弱い。これらの道具を発明した技術力は決して伊達ではなく、アブソリューティアンの成分を分析するあたり、Zとは別のベクトルで異常に科学の発達した世界であるということは分かる。

 闇の巨人は共存しえない敵ではあっても悪ではない、ということは一貫しているように見える。もっとも残忍なヒュドラムでも、闇の勢力の復活と言う信念では一貫しており、決して軽薄な悪党と言う風には描かれていない。ダーゴンの、人類への敬意と憧憬の入り混じった葛藤は察して余りあるものだ。闇と光は相反するように見えて、実際には根源は似たものなのだ。
 イグニスはケンゴよりも主人公らしいかもしれない。一度すべてを失った人間がどうやって立ち直り、前を向けるようになるか精彩に描いているからだ。最初こそ復讐に燃え周りが見えなくなってはいたが、やがてより多くの人間を守るための大義に目覚めていく姿はトリガーの別の側面として際合っている。
 彼がトリガーダークに変身してケンゴと共闘する姿は仮面ライダーにおける二号ライダーを思わせる。それでも別に、トリガーダークがその姿を光に浸食されるわけではない。イグニスの変身口上は「未来を染める桎梏の闇」のままだし、イグニスの立っているインナースペースは薄暗く霧が立ち込めている。
 彼は闇のまま、正義の味方たりえるのだ。これはまさに、善悪二元論的な意匠からの脱却がうかがえる。最終回で現れたトリガーの真の姿は、超越者の美しさと恐ろしさを兼ね備えており、無難な格好良さをいい意味で裏切っている。

 サブタイトルにはNEW GENERATION TIGAとあるが、もはや二十年以上前の古典的作品となったティガをどれくらい要素として取り入れるかにスタッフが翻弄されたことがよく分かる。そして視聴者の方でもティガへの愛着がトリガーに対する評価を大きく揺さぶっているのが明白だった。僕は面白さがあれば大体何でも楽しむ方だが、過去作との関りや向き合い方は無視して通れない分野。
 一面的に全てが良いと言えるわけではないし、評価しづらい所も多々ある玉石混交ではあるけれども、最終的には見てよかったと思える作品だ。

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