俺は誰にも従いたくない

 俺は誰にも従いたくない。そう書くとまるで狂犬のような口ぶりだが、実際には誰かに従おうとしても、無意識的に反抗しようとする方向に心が動いてしまう。だから、もう少し正確に言えば、俺は誰にも従えないのだ。
 だが無論、色んな経験をして、色んな物を見ていく中で、「やっぱり他人に従ったり他人を従えたりするのはだめだな」っていうのは強く確信してきたことでもある。

 まず俺は、指図されたくない。
 仕事をしてると、自分がどれだけ指示通りに行動する才能がないか分かってしまい、嫌な気分になってしまうから。
 どう頑張っても、ふとした所で他の人の思い通りではない行動を取ってしまう。99回できても、100回目で失敗してしまう。人に従った所で、必ずその人を裏切るような真似をしてしまう。どう頑張っても、無意識的に人の機嫌をそこねるようなことをしてしまう。こういうことを繰り返すと、頭を下げるのだけでも嫌になってくる。どうせ誰かの思い通りに動くことなんてできやしないのに、誰かの思いのままに動かされてたまるかよと。
 だから、誰も俺に対して思いのままに指図することなんかできない。

 そして俺は誰かに指図するのも好きじゃない。誰かを支配したり、命令するような立場にも就きたくない。そういう立場に立ってしまったら、俺が俺じゃなくなってしまう感じがして。
 人に好かれたいという欲がないわけではないが、かといって無批判に肯定してくれる人間が欲しいわけでもない。
 自分の思想信条に他人を盲従させたりしたくない。
 自分だけが正しいと思って何かを断罪するようなことはしたくないし、わざときつい表現を使って扇動したいわけでもない。共感は必要ない。理解してくれる人間さえいれば、それで十分さ。

 そして何より――世の中のためになることは一つもしたくない、という意固地さが僕にはある。
 俺は世の中のために何かしたかったが、結局できなかった。それが、世の中の必要とするものではなかったからだ。
 ならば最初から世の中のためになることなんて金輪際してやるものか。
 日本では世の中のためになるようなことをしなければいけないという「働かざる者食うべからず」という風潮が強いが、こういうのにも反対していきたいのだ。人は存在しているだけで価値があるとまでは言わないにしても、ただ誰かとか世の中のために利益になるようなことをしていない、というだけで馬鹿にされたり見捨てられたりするような社会であっていいはずがないから。

 働くということは、自分以外のものに所属するということでもある。
 世の中はとかく、何かに所属することを求めるものだ。何かに所属することが人間にとって自然なことで、そうしない人間をともかく蔑むものである。こういう風潮も僕は拒絶する。
 何かの一部であり続けないと変になってしまうのはよくあることだから、そう簡単に否定はできないことだ。
 それでも俺は俺として生きていくことしかできない。家族であれ国家であれ、結局その中に属してもうまくいかなかった。それは反骨精神とかいうかっこいいものではなく、単なる精神的な欠陥に過ぎない。どうがんばっても、結局他人とはなじめずに、自分勝手に生きてしまう。それが誰にもならないと自覚しておきながら。
 他人に迷惑をかけたくない、だから俺は何にも自分の生きる意味を委ねずに孤独の道を歩む。

 まあ、人に必要とされる限りのことはしてやるよ。自分がやりたいと思ったことなら世話を焼くのはそんなに嫌じゃないからな。


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