人間六度「スター・シェイカー」を読んだ。 理解するのに時間がかかるが、実に読ませる作品だった。様々な要素が雑多に混じり合い、決して融合しないままにそれぞれの持ち味を発揮する、そんな作品だった。 テレポートをメイン要素にした小説といえば「虎よ、虎よ!」が思い起こされるが、作者はそれをまだ読んでいないということである。 第二章、廃棄された高速道路でSAに人が集まり、国家のように割拠しているという話が実に面白かった。何というか第二章だけ空気感が違う。前後がFF7のような雰囲気であるのに対し、マッドマックスや北斗の拳を彷彿とさせる世界観なのだ。何というか、第二章で紹介される設定を使って、一個小説が読みたいと思わせるほどなのだ。あまり深くは語られないが、政治情勢も閉塞感が極まっている。テレポートという架空の要素に現実の難民問題を絡めたくだりは実にリアルだし、近未来のドローンや戦車などの兵器とどうやって戦っていくかも、緊迫感に満ちている。 何といっても、テレポートで相手が存在する場所に移動し、相手の肉体を粉砕するというグロテスクさ。確かにテレポートで相手の肉体の一部を切り取るという残酷な戦い方あるとはいえ、相手の体を、位置を重ねることでばらばらにするというのは地味に考えたことがなかった。 しかし、勇虎とナクサの関係が作品のメイン要素である。インド哲学の用語をちりばめて、深遠な雰囲気を演出しており、含蓄が深い。 この二人は、勇虎とナクサは基本的に切羽詰まった状況の中を生き急いでいる。互いの内心について語り合うことはほとんどない。ひたすら次から次へと強敵や困難な状況が立ち現れてくるので、それを乗り越える死闘の方に多くの尺が割かれている。 二人の関係は戦友というべきか、あまり恋愛という感じがしない。そもそも異性として意識している感覚も乏しく見える。殺伐としていて、生き抜くために精一杯なので、そこまでロマンスな雰囲気をほとんどにおわせない。 それで、終盤で恋愛感情が芽生えたようになっているのは唐突な感じが否めなかった。 二人を取り巻く物語に描写が集中している分、テレポートが存在する日常の場面がほとんどなく、そのためテレポートがどう使われているかももう少し掘り下げが欲しかった所である。 終盤の決戦の後、甚大の被害を出しながらも、社会の再建が始まり、わりと円満に近い形で終わっているのは無理やりな感じがした。何より、ナクサの分身が犠牲になったことはかなり重大な悲劇であるはずだが、もはやその時にはエピローグになってしまい、十分に書き尽くされることがなかったのは遺憾である。 だがこの作品は細かい粗を、勢いで乗り切っている。面白いものを書こうとする作者の意志が全体からひしひしと伝わってくるのである。勇虎が心を荒ませていきながらも、それでも仲間の言葉を信じて、前身し続ける壮絶さこそ、この小説の持つ魅力。 この世界とは違う場所の可能性をシミュレーションするのがフィクションの醍醐味なのだ。そして、科学の発展と歴史の展開に対して向けるその想像力の逞しさ、千差万別さに僕は惹かれるのだ。 これだからSF小説を読むのはやめられない! |